「尖閣諸島購入」問題の本質

米国の立ち位置隠し 豊下楢彦(5月10日付東京新聞夕刊)

 石原慎太郎東京都知事が、尖閣諸島のうち個人所有の三島を都として購入する方針を明らかにしたことで、その狙いや賛否をめぐり議論百出の状態である。しかし、問題の本質をえぐった議論は提起されていない。
 石原氏は購入の対象として魚釣島(うおつりしま)、北小島(きたこじま)、南小島(みなみこじま)の三島を挙げている。しかし、同じく個人所有の久場島(くばしま)については全く触れていない。なぜ久場島を購入対象から外すのであろうか。その答えは同島が、国有地の大正島(たいしょうとう)と同じく米軍の管理下にあるからである。海上保安本部の公式文書によれば、これら二島は「射爆劇場」として米軍に提供され「米軍の許可」なしには日本人が立ち入れない区域になっているのである。
 それでは、これら二島で米軍の訓練は実施されているのであろうか。実は一九七九年以来三十年以上にわたり全く使用されていないのである。にもかかわらず歴代政権は、久場島の返還を要求するどころか、高い賃料で借り上げて米軍に提供するという「無駄な行為」を繰り返してきたのである。ちなみに、一昨年九月に中国漁船が「領海侵犯」したのが、この久場島であった。それでは事件当時、同島を管轄する米軍はいかに対応したのであろうか。果たして、米軍の「抑止力」は機能していたのであろうか。 
 より本質的な問題は、他ならぬ米国が尖閣諸島の帰属のありかについて「中立の立場」をとっていることである。久場島と大正島の二島を訓練場として日本から提供されていながら、これほど無責任な話があるであろうか。なぜ日本政府は、かくも理不尽な米国の態度を黙認してきたのであろうか。
 言うまでもなく日本政府は一貫して「尖閣諸島は日本固有の領土であり、領土問題などは存在しない」と主張してきた。ところが米国は、一九七一年に中国が公式に領有権を主張して以来、尖閣諸島について事実上「領土問題は存在する」との立場をとり続けてきたのである。しかも中国は、こうした日米間の亀裂を徹底的に突いてきているのである。
 とすれば日本がなすべき喫緊の課題は明白であろう。尖閣五島のうち二島を提供している米国に、帰属のありかについて明確な立場をとらせ、尖閣諸島が「日本固有の領土である」と内外に公言させること。これこそが、中国の攻勢に対処する場合の最重要課題である。これに比すなら「三島購入」などは瑣末(さまつ)の問題にすぎない。
 しかし、仮に同盟国である米国さえ日本の主張を否定するなら、尖閣問題が事実として「領土問題」となっていることを認めざるを得ないであろう。その場合には、日中国交正常化以来の両国間の「外交的知恵」である「問題の棚上げ」に立ち返り、漁業や資源問題などで交渉の場を設定し妥結をめざすべきである。
 いずれにせよ、石原氏が打ち上げた「尖閣諸島購入」という威勢の良い「領土ナショナリズム」は結局「中立の立場」という無責任きわまりない米国の立ち位置を覆い隠す役割を担っているのである。
(とよした・ならひこ=関西学院大教授、国際関係論・外交史)

(出典: loverei)

wasbella102:

Cormorant Fishing, Giulin, China

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2012-03-22

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